3階建て狭小住宅で後悔しない!専門家がリスクを解説

  • Update: 2022-08-05
3階建て狭小住宅で後悔しない!専門家がリスクを解説

東京23区内を中心に、住宅が多く建ち並ぶ地域で、コンパクトな土地に建てられる『狭小住宅』が増えています。また、外観がスタイリッシュでオシャレな『キューブ型(箱型)住宅』、新型コロナウイルスが流行してからは、リモートワーク用にセカンドハウスとして、タイニーハウスのようなミニマムな空間の需要が上がっています。

本記事で取り上げる「木造3階建て」の狭小住宅は、土地の面積や建物のワンフロアの面積は小さくとも、3フロアに積み重ねることで、リビングダイニングや水まわりに加えて2~3の居室が設けられ、好立地でも比較的リーズナブルに一戸建てが購入できることから人気があります。

ただ、コンパクトな土地で木造3階建てを建設すると、少し設計や施工に通常はやらないイレギュラーなことが起きることも。

今回は、『業務歴20年以上のプロのインスペクター』が建売の木造3階建て住宅の建物について、建物の特徴とその注意点、点検のタイミングまで深堀してご紹介いたします!参考にしていただけると幸いです。

新築一戸建て引き渡し前チェック(内覧会立会い・同行)

木造3階建て住宅は『床下』に注目!

木造3階建て住宅は床下に注目

※床下進入調査の様子

限られた広さの土地に建てられる木造3階建て住宅の特徴のひとつに、床下空間が狭くなりやすいということがあります。

狭小地に建つ木造3階建て住宅は、建築物の高さ制限が厳しい地域に建てられることも多く、居住空間をできるだけ広くしようとすれば、どうしても居住空間以外にしわ寄せが来がちです。

しわ寄せがくる部分とは、「床下」です。 一般的な一戸建てでは、床下空間は最低でも30センチ以上の高さで設計されることが多いのに対し、高さ制限が厳しい地域で3階建てにした住宅では、10センチや15センチなどの高さで床下が設計されていることは珍しくありません。

こうなると、物理的に人が床下空間に進入してくことが不可能になり、後から点検したり修繕することが困難になります。なにかトラブルがあった時に、通常だと床下に潜って点検や修繕等を行いますが、狭小住宅の場合は床を壊さないといけないケースも多いことを頭に入れておきましょう。

<床下に人が入れないとどうなるの?>

点検口から床下を点検するホームインスペクター

床下の高さが低ければ、点検口から人が進入して奥まで行くことはできません。

点検口付近であれば点検口からライトで照らし、床下をのぞき込むことで施工不良やトラブルに気付けるかもしれませんが、不具合は必ずしも点検口付近で起きてくれるわけではありません。 床下に人が入れなければ、もし床下で配管の水漏れ事故が発生したり、床裏に貼られた断熱材がはがれていたりしても、直しに行くどころかそれらが発生しているかどうかの点検すらできない問題が生じます。

建売の木造3階建て住宅では、必ず現地で外から見たり、床下点検口を開けて内部を見たりして、床下がどのくらいの高さになっているのか確認しましょう。

なお、床下に入れないからと点検口をほとんど設けられていない住宅もありますが、少なくともカメラで写真が撮れたり臭いの変化を確認できたりしますので、基礎・土台が見られる位置や給水管・排水管がある水まわり付近に「床下点検口」を設置してもらうことをお勧めします。

道路より1階の床が低い位置にある場合は要注意

高さ制限が厳しい地域で3階建てを建てる場合、少しでも居室の天井高を高くするには床下を狭くするとともに、1階の床面が道路より低い位置になるよう、土地を少し掘って下げて建てることがあります。

この場合の注意点は「水」。水は当然、低いところに流れていきます。そのため降雨時にはもちろん建物周辺に集中的に水が溜まりやすくなります。豪雨の際には、道路より1階が高い位置にある住宅より、はるかに床上浸水のリスクが高まります。

また、道路や周辺の土地より低い土地になることで、基礎周辺や1階床面周辺は風通しが悪く湿気が溜まりがち。シロアリ対策や構造材の耐久性の観点から木材はできるだけ乾いた状態が望ましいため、木造住宅にとっては決して好ましい環境ではありません。

周辺の土地より地面を少し掘り下げて建てた建売住宅は、1階の基礎・土台が見える位置の床面に点検口を設けておき、定期的に木材の変色など起きていないか点検するようにしましょう。

住宅が連なる地域ならではの 「軒(のき)ゼロ住宅」

軒(のき)ゼロ住宅

コンパクトな土地では、できるだけ家の中は広くしたいもの。そのため、隣地や道路との境目のギリギリまで建物を建てる設計になり、「軒(のき)」「庇(ひさし)」が取り付けられなかったり、非常に短い出幅でしか取り付けられなかったりすることが多くなります。

  • 軒・・・外壁から飛び出している屋根の先端部分
  • 庇・・・窓やドアなどの上部外壁に取り付けられる板状の部材

ただですら建物の壁が敷地境界ぎりぎりの位置にあるため、軒や庇を数十センチの長さで設けてしまうと、それらが敷地を飛び出し越境してしまうのです。 このような軒や庇の出がほとんどない住宅は「軒ゼロ住宅」と呼ばれることもあります。狭小住宅の8割〜9割が軒ゼロ住宅です。

<軒ゼロ住宅で高くなる「雨漏りリスク」>

軒や庇は雨が建物に直接かかりにくくすることを目的に設置されるため、軒や庇がほとんどなければ、窓や出入り口などに雨がかかりやすくなり、「雨漏りのリスクが増える」といえます。特に軒ゼロ住宅では、一般的な3階建て住宅と比較して約5倍のリスクがあるといわれています。

国土交通省の国土技術政策総合研究所によれば、軒の出が短い建物ほど、雨が壁にかかる面積が大きくなり、結果的に壁を濡らす雨の量が多いということがデータで発表されているのです。

【参考】軒の出寸法による雨がかり分布の相違

【参考】軒の出寸法による雨がかり分布の相違
※出典:国土技術政策総合研究所ホームページ
http://www.nilim.go.jp/lab/hcg/htmldate/waterproof/index.html

(1)建物の4方向で90cmずつ軒が出ている建物
(2)建物の2方向で90cmの軒が出ていて、別の2方向は15cmの軒が出ている建物
(3)建物の4方向で15cmずつ軒が出ている建物 (軒ゼロ住宅)

このデータを見る限りでも、屋根の軒が短いほど、建物全体、特に屋根付近が濡れることがわかります。 一般的に建物には防水施工が施されますが、建設時の施工がしっかりできていなければ防水性能は万全ではありません。 また、日々の生活による微細な振動や地震の影響、経年劣化によっても、外壁にはひびが入ったり防水施工が劣化したりしますので、長時間や多量の雨にさらされにくくしたほうが雨漏りは起きづらくなります。

窓も、長時間や多量の雨がかからないほうが望ましい部分です。壁同様に防水(止水)の性能が期待されていますが、壁の材料とアルミや樹脂のサッシをつなぎ合わせて施工していることから、継ぎ目に隙間が生じる可能性はあり、雨漏りが起きやすい場所と言えます。

<軒ゼロ住宅で雨漏りリスクを減らすには?>

雨漏りリスクを減らすには

建売の3階建て住宅に限定した話ではありませんが、できるだけ水が浸入する小さなひび割れや穴ができないようにするしかありません。軒や庇の付近だけでなく、外壁全体の隙間に十分な注意が必要です。

それらを防ぐ最善の方法は、建設時の防水工事や外壁を施工基準にのっとり適切に施工しておくことです。外壁に貼る防水紙の貼り方の間違いに職人も現場監督も気づかず、誰も知らないまま完成した家で、築後少しで雨漏りが発生した事例もあるのです。 また、外壁にはガス管や電気配線が入っている管などを通す穴が開けられているため、管と穴の隙間を止水用のシーリング材でしっかり埋めているかどうかも重要です。バルコニーの手摺と外壁の接続部も水が浸入しやすい場所ですので、止水処理が行われているかどうかよく確認しましょう。

<知らぬ間に多量の雨が壁に染み込んでいる>

知らぬ間に多量の雨が壁に染み込んでいる

なお、雨水は意外と簡単に壁材の中に入ってきてしまうもの。雨の入り口になる外壁のひび割れや隙間が肉眼で判別できない小さなものでも、長時間雨にさらされていれば、あっという間に壁の中に多量の水が染みこみます。

壁の表面に出てきたシミをきっかけに雨漏りに気づいたときには、壁の中の断熱材も柱などの構造材も、ぐっしょり濡れている可能性が高いため、雨漏りが起きにくいように気を配っておくことが重要です。 外壁のひび割れや窓周辺のシーリング材の劣化も雨漏りの原因になりやすいため、10年くらいのサイクルで必ず外壁の点検、メンテナンスを行い、雨漏り発生リスクを減らしておきましょう。

床下や壁を点検するタイミングは?

床下や壁を点検するタイミングは?

どんな家でも地震の揺れによる変化や経年劣化は起きるため、建売の木造3階建て一戸建てに関わらずどの建物でも点検は大事です。

ただ、特に床下の空間が狭かったり、周辺より下がったところに建っていたり、軒の出が少ない住宅は相対的にトラブルが起きる要素が多いことから、それらの特徴がある木造3階建て住宅は特に点検を重視しておいたほうがいいでしょう。まずは建設途中または新築完成時に外壁や見える範囲の床下などをしっかりチェックしておきましょう。

引き渡し前であれば、ひび割れや隙間など施工会社に修繕依頼ができますし、床下点検口が無い又はほとんど設置されていなければ、増設(※)の相談ができます。
※大引きや束など、床を支える建材を切断しない位置で開口してもらう必要があり、開口の作業や点検口の部品について、有料工事になる可能性があります

その後は1年に1度は外から基礎表面や外壁、配管類が壁を通って出てきている場所を見てまわり、目視点検しましょう。2階以上の高所は双眼鏡を使って観察するのがお勧めです。

なお、一般的な状態がどういうものかわからなければ、どの部分の施工に間違いがあるのか、異変が生じているのか、見ているのに気づけない可能性もあります。 木造3階建て住宅に精通したホームインスペクターが診断に伺えますので、お気軽にご相談ください。  

さくら事務所では、新築一戸建ての引き渡し前に専門家がサポートするサービスをご提供しています。お困りごと、心配ごとに応じて、お気軽にお問い合わせください。